2010年1月16日土曜日

『ワールド・トレード・センター』検討ーその2ー

 個人的には、時事的な話題、内容(演劇、写真、建築)など、かなり好みのタイプの作品でしたが、少し主張に欠ける印象を持ちました。事件全体を俯瞰する見方がほしいというのも私の意見です。やはり、その後現在まで続く事件の影響に対して、演劇に限らず、いろんな人が様々な意見を述べて、それがひとつの現代社会を語る軸になっている現在の状況にあって、「こんな事件でしたよ」という客観的な視点をフラットな視点のつもりで提示するだけでは、上演する意味に乏しいのではないかと、感じていました。

 その後もう少し考えて、もう少し別の読みの視点を持つべきなのか、とも思いました。残念ながら上演を見た参加者はいませんでしたが、大きな段ボールをたくさん使った演出が用いられたようです。思えば、私がだいぶ前に見た燐光群の『ローゼ・ベルント』でも、たくさんの段ボールを使った演出がありました。軽くてすかすかで、移動を目的とする段ボールの性質は、スタティックな従来の舞台や演出に対抗する手段のように写ります。それは日本に「根」を持ちながらニューヨークで働く日本人編集者の「仮住まい」であり、同時に、最もスタティックであると考えられていた「ワールド・トレード・センター」が崩れ落ちたという事実と響きあって、彼らの「根」への不安、危うさをビジュアルに映し出していると考えられないでしょうか。

反則気味に個人的な意見を書いてしまいましたが、この辺で。
次回の開催も決まり、なんと次はギリシャ悲劇だそうですよ、楽しみです。

2010年1月6日水曜日

『ワールド・トレード・センター』検討

 劇中では、「9・11」がリアルタイムで進行するなかで、現場の足下にいる人々を取り巻く、交錯する情報や人々の様子が描かれます。上演時には実際にそういった経験をした役者が出演したそうで、それもまた劇の臨場感を高めます。

 9・11という、歴史的な評価が未だ定まらない事件を扱う上で、脚本家がどういった価値観でこの事件を見つめているかは、興味深いところです。坂手洋二の作品は、社会的に関心の高い主題をストレートに扱うという特徴があり、かなりメッセージ性の強い作品が多いようです。しかし今回の場合は、作家が自分の意見を投影するというよりも、事件を舞台上にいかにリアルに再現するか、という点に焦点が当てられているといえそうです。またそういった臨場感のなかで描かれる登場人物の人間性の様々な側面がこの作品を引き立てているといえるでしょう。とはいえこれだけ世の中を動かした近年最大のトピックなのだから、それをタイトルにするとなれば、その中の個々の人間ドラマだけでなく、事件を俯瞰する視点がほしいという意見もありました。

 「カタカナのワールド・トレード・センター」もこの作品の理解へのキーワードになりそうです。舞台となるのは、飛行機が突入したツインタワーのすぐ近くの日本人を中心とした出版社です。さらに、劇中では日本文化や日本語の特徴など、ローカリティについての話題が繰り返し出てきます。被害にあった地域の特性上、世界中の人々が巻き込まれた事件の渦中に交わされるこのような会話にはどのような意図があるのでしょうか。

 ブロードウェーでアンダースタディ、代役の仕事をしているジャニーの存在も気になります。この、「アンダースタディ」という聞き慣れない言葉が非常に多く劇中の会話に登場します。ブロードウェーでは公演の主役には必ず代役が控えているというシステムがあるそうですが、ここまでこの仕事が強調されるのはなぜでしょうか。メンバーからあがったのが、代役という仕事の性質が、演劇そのものの世界を代理、表象するという性質と関わりがあるという指摘です。しかし、これが今回の作品とどう関わるかまでは議論は進みませんでした。

 今回は若干時間が限られていたのと、途中人の入れ替わりがあったりして、多彩な意見が出るには少し厳しい環境だったかも。今回のようにとても「具体的な」テーマを扱った作品だと、たとえばこの事件に関する予備知識などもある程度、作品について語る上で要求されるのかも知れません。

1月4日(月)『ワールド・トレード・センター』

14時〜、「たわまが」が開催されました。
今回の戯曲は、

坂手洋二作『ワールド・トレード・センター』

です。


さて、たわまが開催もはや15回目ぐらいだそうです。前回の活動報告(『毛皮のマリー』)からかなり間が開きましたが、その間にも着々と開催されていました。私個人は久しぶりの参加で、結構張り切って望みました。参加者は6名。冒頭には主宰関口より年頭の挨拶、今年の方針などのお話しがあり、新年らしいスタートを切った「たわまが」です。コンスタントな活動と団体運営の効率化を通して、身近なところから知名度を広げていき、飛躍につなげていきたい、という感じだったかと。

さて、今回読むのは、現代の日本の戯曲界きっての社会派、坂手洋二の作品で、彼の劇団「燐光群」の25周年記念公演として2007年に上演されたかなり最近の戯曲です。センセーショナルなタイトルがまず目を引きます。2001年の「同時多発テロ」、もちろん参加者全員がリアルタイムで事件を知っていて、記憶も鮮やかです。上演時も見た人の多くが私達と同じような感覚だったと想像できますが、そのような人々にこの作品は何を訴えかけているのでしょうか。

個人的にこの事件で思い出すのは、ウィンドウズの絵文字のフォントでキーボードの「911」を入力すると、2本のビルに飛行機が飛んでいく絵になるという。。。初めてやったときはなんかゾッとしましたね。