2010年4月4日日曜日

『シャクンタラー姫』検討ーその1ー

・キャッ、キャッ!

 『シャクンタラー姫』の舞台は神話中のインドの宮廷やその周辺です。この舞台設定は、これまでたわまがで読んできた西洋や日本の演劇の、比較的私達にとってなじみのあるものとは大きく異なる情景を、我々に想像させてくれます。カースト制に基づく身分社会であるとか、作品を通じて描かれる場所が「暑そう」であるとか、なので蓮の葉で扇ぐとか、また、登場する植物や動物が、蓮やマンゴー、象など、南国情緒あふれるものであったりします。「マンゴーの蕾を折った」(6幕3節)ことがなにを意味するのか、そこにある香りや色はどんなものか、私には想像もつきませんが、それでも描き出される美しい魅力にとりつかれます。

 一方で、物語の基本的な筋や、多くのシーンにおける登場人物の心情の推移は、私達の感覚でも十分に理解できます。物語の主題がシャクンタラーと王であるドゥフシャンタの恋なので、人類普遍の(?)恋模様が、時には微笑ましく描かれます。うら若き乙女達が「キャッ、キャッ!」と恋と戯れる、そんなシーンをみていきましょう。

 3幕冒頭、1幕でお互い一目惚れした二人が再び出会います。シャクンタラーの友人であるアヌスーヤーとプリヤンヴァダーはその場に二人とともにいたのですが、恋人を二人きりにしようとこんなことを言います。


「プリヤンヴァダーさま、あそこに、苦行の衆の鹿の仔が、あちこちと目を動かせて、はぐれた母親を探しておりまする。それゆえ、わらわはこれから、仔鹿を母親のもとへ、連れていってやりましょう。」


それに対して、プリヤンヴァダーは、


「アヌスーヤーさま、あの仔鹿は、なかなかじっとしておりませぬ。あなたさまお独りでは抑えきれますまい。それゆえわらわも、お手伝いいたしましょう。」


といって、二人はその場を離れようとします。シャクンタラーはそれを引き留めて、


「お二人とも、ここからよそに、おいでなされては、いやでございます、わらわが独りぼっちになりますほどに。」


といいますが、友人二人は「笑みを浮べて」、


「あなたさまが独りぼっちとは、聞えませぬ、地界を守る王様が、おそばにおいで遊ばしますのに。」


と答えて、立ち去ってしまいます。こうして若い恋人は無事二人きりになることが出来たのでした。思わずニヤニヤしてしまうようなシーンです。きっと仔鹿なんていなかった、もしくはいたとしても、のどかに草をはんでいて、困った様子や暴れる様子など全くなかったに違いありません。

 真面目に書くのも気恥ずかしい、こんなシーンや台詞が作品全体を華やかに彩ります。

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